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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(オ)586号 判決 1966年12月01日

上告人(被告・控訴人) 福島交通株式会社

右訴訟代理人弁護士 小野崎正明

被上告人(原告・被控訴人) 合名会社二京商事

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小野崎正明の上告理由について

原審の認定した事実関係によれば、上告人は手形要件の一部を白地のまま約束手形用紙に記名押印して、あたかも通常の白地手形の外観を有するにいたった書面を訴外株式会社瑞穂製作所代表取締役山田忠雄に交付したのであって、同訴外人もしくはその後同訴外人からこれを取得した者により右白地が補充されて転々流通するにいたることは当然これを予想しうべきところであり、このような場合には、上告人は手形法一〇条、七七条二項の法意に照らし手形振出人として、右手形を悪意もしくは重大な過失なくして取得した所持人に対して手形金支払の義務を負うものと解するのが相当というべく(昭和二九年(オ)第二二〇号同三一年七月二〇日最高裁判所第二小法廷判決・民集一〇巻八号一〇二二頁参照)、これと同趣旨に出た原判決は正当である。従って、論旨は採用できない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

上告代理人小野崎正明の上告理由

一、本件約束手形は、上告人が訴外株式会社瑞穂製作所代表取締役山田忠雄個人の懇請により、同会社の資力を仮装するため単に見せ手形として使用し他に裏書譲渡しない約束で、約束手形用紙に金額五百万円、支払期日、昭和三八年十二月十五日、支払地福島市、支払場所常陽銀行福島支店、振出地福島市、延利日歩四銭と記入して、福島市上町四番三〇号福島交通株式会社取締役社長織田正吉と記名捺印し、振出日及び受取人欄を空白としたまま前記訴外人に交付したところ、前記株式会社瑞穂製作所専務取締役である森嘉津吉は、これを通常の白地手形と誤信し、右約束手形の受取人欄に「株式会社瑞穂製作所」と記入補充したうえ、右会社取締役社長山田忠雄名義で割引依頼のため原告(被上告人)に裏書譲渡した。との事実を認定した第一審判決を、原審は理由ありとして、控訴を棄却したものであるが、上告人は、訴外山田忠雄に見せ手形として使用すること、従って他に裏書譲渡しないことを約束した上で交付したものであるから、補充権を与えていないものである、補充権のない約束手形に補充して裏書譲渡した本件手形は、上告人に対して無効な約束手形である。

よって原判決は破毀さるべきである。

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